阪神大震災で壊滅的な被害を受けた被災地の復興の在り方を探るシンポジウム「大震災後のの21世紀への新ビジョン」が、このほど東京郡内で開かれた。情報、経済、都市防災の角度から、専門家による具体的
な提言が相次いだ。震災から半年。再建される都市像についての議論も本格化してきたようだ。
各界から町づくり提言
企業人や学者、ジャーナ リストなど、各界から英知 を集め、復興への支接を目指す民間団体「兵庸再生支 援の会」(宮内淑子代表)の主催。
ノンフィクション作家山 根一真さんは、地震直後の被災地を取材した経験から 「避難所では、安否の確認 などで情報の混乱が見られた」と指摘。避難者名簿の整理をパソコンで手伝い効果を上げたことを紹介し
「マルチメディアが危機状 況で役立つことを実感した」と話した。
「電話回線の復旧は非常に早かった。災害時に備えてホストコンピューターを遠隔地に設置しておけば、在宅でもどこにいても通信 は可能。複数個所とのやりとりも、電子メールを使えば全員に一度に配布できる」とパソコンの有効性を
強調した。
現代人間科学研究所所長の飛岡健さんは「世界の経済 構造が大きく変わっているのに、ばく大な資金を投 じて従来通りの産業構造を復元させようとしているにすぎない。それで世界に通用するのか」と、経済の立場から、復興の方向に疑問を投げ掛けた。
その理由として、飛岡さんは、不動産価格や株価の下落に象徴される「資産デフレ」と、アジア諸国の安い製品が日本市場を席けんしかねない「南北格差是正
デフレ」を挙げた。「10年、15年先の世界の変化を先取りして領興のターゲ ットを考えなければ。情報産業 を徹底して取り込んでいく視点が重要だ」と提言した。
都市防災の観点から発言したのは、建築家の黒川紀章さん。東京を例に取り組んだ大都市の耐震的町づく りのシミュレーションを基 に▽危険物分布マップの作成
▽避難場所の学校と、病院、警察、消防とをデジタ ル無線で結ぶ緊急ネットワークの構築▽防火用水の地 下設置▽救助道具の備蓄▽ ガス、電気などの分散ネットワークの構築▽海水利用
型の消火栓設置−など、都市計画 のポイントを列挙し た。
その上で「将来の防災型都市 の条件は、水路を巡らせ、最小限200坪〔660u)の常緑樹の森を各所に造る以外にない。防災的な町は、環境に恵まれたいい町でもある」と、都市再生の方向を指し示し
た。
貝原俊民兵庫県知事は「私たちには、30年から50年間は、防災の大切さを情報発信していく責任が ある」と、被災の経験を未来に生かす決意を表明。
「阪神の市民性はこだわりのない明るさだ。私たちの文化の特長を生かし、21世紀の日本を見据えて復興に取り組みたい」と締め くくった。
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