生かされている私
LOOK JAPAN(平成12年1月)

「阪神・淡路大震災」という貴重経験によって私に見えてきたものとは・・・

<生かされている私>
「仕事で、1月16日の夜遅くに神戸に入りました。その夜の満月は赤黒くて、なんとも異様な気分になりましてなかなか寝付けず、やっとうとうとしかけたときに、ドッスンという衝撃と、自分の悲鳴とで目を覚ましました。」

こう語り始めたのは、多彩なヒューマンネットワークを構築するコミュニケーションビューロの代表であり、コラボレーションプロデューサーを標傍する、宮内淑子。兵庫県の参与も勤める宮内は、夜明けを待って歩いて県庁に向かった。「近代的な街がこんなにも無残に、また脆くも破壊されるとは何とむごいこと」と涙ながらに心の中で叫びながら県庁についた宮内は、多くの県庁職員自身が被災者である中、自分なりにできることをしようと、被害状況把握のため関係機関等に電話をかけるが、電話は偶にしかつながらず、無線もほとんど機能しなかった。
「情報収集の手段を絶たれた人間の能力の限界をたたきつけられたようでした。ひたすら体力と気力の世界でした。」と宮内は「地獄絵図」の震災直後を振り返る。

「誰が亡くなっても不思議ではないような大惨事の中で私は幸いにも生き残りました。そのとき私が強く感じましたのは、それまで私は『自分で生きている』と思っていましたが、実はそうではなく、私は『生かされている』のではないか、ということでした。そして、だとすれば、『私が生かされている意味は何だろう』『私にできることは何だろう』という思いにかられました。

東京に戻った宮内は早速、これまで自ら培ってきた人的ネットワークを活用して、安西邦夫氏(東京ガス社長)、樋口廣太郎氏(アサヒビール渇長)、建築家の黒川紀章氏、石井威望氏(調教大学名誉教授)、篠田正治(映画監督)、ノンフィクション作家の山根一眞氏といった日本を代表する署名な財界人、学識経験者、ジャーナリスト38名に「兵庫再生支援の会」の発起人就任を呼びかけた。「会」では、募金活動、兵庫県知事への提言書の提出、ボランティア活動の申し出とボランティアと兵庫県との調整、講演会の開催、サポーター集団としての「PROPEL21」の結成とこれを通じて支援活動を行ってきた。

<生命体としての地球、宇宙環境の一部としての人間>
「大震災は本当に、非常に悲しい、痛ましい、つらい経験ではありましたが、私たち人間にとって真に大切なものは何なのか、人間関係の核なるものは何なのか、といった根源的な問題を私たちに気付かせてくれました。」と宮内は続ける。「私たちは近代化を推し進める中で、一方で傲慢ともいえる人間中心の考え方で、ひたすら経済効率を追い求め、モノの大量生産−消費-投棄を続け、地球環境の破壊を進めるとともに、他方、従来はあった、他人への思いやり、助け合う心、といった温もりのある人間関係を忘れ、希薄で、さめた人間関係に馴らされ過ぎてきたのではないかと思います。

「震災によってモノが壊れる中で、いざというときに最も便りになったのは、実はモノではなく、一方でこれまで余り見えなかった、あるいは見ようとしなかった、親子の絆、友人・知人との関係、お隣同士の人間関係であり、他方、これまでにはなかった新しい息吹きとしてのボランティアの立ち上がりであり、更には、予想さえしなかった、人類的な地球規模での愛とも言える、世界の皆さんからの暖かい支援、救援が心の支えでした。見えない部分での人間的なつながり、コミュニティの大切さを痛感しました。

「そしてあらためて、自然の『凄さ』も痛感しました。あれだけの震災の被害を受けたにも関わらず、木は根をしっかりと張っていて、芽を出し、花を咲かせました。私たちは、その逞しさに勇気付けられたり、心穏やかになったりしました。ですから、今こそ、私たちは謙虚な気持ちで、人間も生命体としての地球の一部であり、更には(生命体としての)宇宙環境の一部であるという『原点』に立ち返って、自然との共生を真剣に考えなければならないと思います。『ジャパンフローラ2000』の理念もここにあります。」

<人類の幸せに大震災の教訓を>
宮内は、かつて全国初の兵庫県主任広報専門員に民間から、それも他県から起用され、6年間に亘って、ユニークな県の広報戦略を展開した。
「兵庫県には明治維新の神戸港海港以来、様々な文化を採り入れる柔軟さを持っています。今の貝原俊民知事ご自身が他見の出身です。」宮内は続ける。「兵庫の人たちは、そんな懐の深い兵庫を愛し、兵庫に生まれ育ったことにプライドを持っていると思います。だからこそ、あれだけの大震災にも関わらずパニックにもならず復旧、復興が進められていると思います。今後は兵庫が大震災を経験したからこそ伝達できる教訓を、海外に感謝の気持ちでお伝えしなければいけないと思います。なかなか見えにくい『心のケア』の在り方もその一つと思います。また、地球規模での災害に対する危機管理体制の構築も日本がイニシャティブを取るべきテーマだと思います。

何れにせよ、今回の経験で得た情報を世界規模で共有し、人類の幸せのために生かしていかねばならないと考えています。それが私たちに課せられた大きな使命だと重います。」